ことばの力

外山滋比古の文章は国語の教科書や受験問題に頻出するらしいので多くの人が知らず読んでいることが多いはずなのだが、学者・評論家としてだけでなく一文章家として非常に素晴らしいと思うので折につけ読むことがある。


『ことばの力』という本の『雅語』という文章の中で常々思っていたことをわかりやすく書いているので少し長いが引用したい。

前略〜ことばは、いつの時代にも変化しているものであるが、戦後のわが国はとくに激しく変わってきた。それを日本語の乱れとしてとらえる見方もすくなくないが、何を基準にして、乱れとするかについては、はっきりした見解が示されることがない。昔のことばはすべて美しく、新しいことばは例外なく唾棄すべきものだとするのは、老人の感傷主義でしかないであろう。
 美しいとする古くからのことばもさらに古い時代から見れば"新しい"ことばだったはずである。新しいとか古いとかは相対的でしかない。ただことばは慣用によって意味を持つものであるから、新しいことばが豊かな慣用を背負ってないために連想に乏しいということはある。
 それだけに、また、妙に古いひっかかりをもつことばを避けて、慣用の定まっていない"白いことば"に自分なりの彩りをしてつかいたいということがある。それは若い人たちに多いけれども、ことばに敏感な人なら、年齢にかかわりなく、"白いことば"の価値を見落とすことはないはずだ。〜後略

二十年以上前の文章なので現状とそぐわないこともあるだろうが、口語の短歌、俳句の登場を期待する文章の中の一部だ。それはともかく、古いことば、新しいことばをどちらが良いと言っている文章でないことは明らかだが、ことばは通じればそれでいいと考えている人たちも、ではことばが通じるとはどういうことなのか考えてみるといいと思う。