エッセイ

『風呂にかける』  みうらかずよし

僕は風呂に入るとき、先ずは肩までつからない。激しい快感が全身を貫く。それを待ち、満を持して肩までつかるのだ。今度は先ほどの激しさに優しさが加わる。母胎回帰とはこういうものかとさえ思う。そして再び肩を浮かばせる。お湯と体との安定した関係が崩れる時、快感が起こる仕組みらしいいのだがさすがに3回目ともなるとさっきの2回には及ばない。お湯の温かさを身体が感じられなくなっていくのが哀しい。いつまでもお湯と睦み合いたい。ぼくはお湯に変わらぬ愛を誓いたいのだと気づいた。

肩を上げるのはのぼせないためでもあるのだ。


『冷蔵庫随想』   根津甚兵衛

先日、我が家に新しい冷蔵庫がやってきました。当然今はまだ中はスカスカしているのですが、冷蔵庫にものがあまり入っていない状態というのはなかなかいいものだと気づきました。取り出したいものがすぐ出せるという現実的な理由もさることながら、可能性を感じさせる点が気に入っています。さっきヨーグルトかなにか入ってないかと開けてみたのですがありませんでした。でもスカスカの冷蔵庫の中身の配置を見ていると、当然あそこのスペースにはヨーグルトが入るな、と自然に思われます。そうして閉めると、もうその冷蔵庫はヨーグルトを持つはずの冷蔵庫になっています。
こうして我が家の冷蔵庫は何でも入っている冷蔵庫になるのです。