お前には負けない

ダメ人間をはかるモノサシはいくつかあり、私はその多くにおいてエキスパートであるが今日はそのうち忘れ物に関する話をしたい。


厳密に言えば私はいまだに出かけるごとに何か忘れ物をしている。忘れ物をすることだけは忘れないのである。


しかし実際その忘れ物で困るということはほとんどない。例えばちり紙を忘れたとしても低脳のふりをして鼻を垂らしていれば済むことである。 幸いなことに私の場合はふりでなくてもいいので助かっている。


しかしこの種の小さな忘れ物も重大事として扱うのが学校、特に小学校である。例えば今も忘れない忘れ物事件としては、下敷き1枚忘れたためにカレーうどんをおかわりさせてもらえないという屈辱を味わったことがある。ところでこの『忘れない忘れ物』とか『カレーうどん』と『味わった』の縁語関係とかちゃんと味読してもらえているのだろうか。あなたたちの知的レベルに不安を抱きつつ話を先に進める。


小学校1,2年のころであるが、当時の担任、長桶先生といったと思うが、彼女が忘れ物表なるものを考案した。方眼紙に生徒の名前を出席番号順に書き、その上に忘れ物をするごとに一つずつマスを塗りつぶしていくという、一種の棒グラフ方式のものだった。


そのクラスには高橋明くんという生徒が居り、出席番号では私の隣に当たった(私の現世名は高橋です)。彼は推定知能指数70弱、限りなく特殊学級に近い白痴っこであった。斯く言う私は彼と忘れ物界における双璧だったのだ。


この忘れ物表制度がどれぐらいの期間続いたかもはや記憶は定かでないが、それが終るまでにほとんどの生徒は3,4個以内。そんな中、W高橋は抜きつ抜かれつ当に群を抜き表の中央に幅2cmの一本の太い棒と化し当に天を衝く勢いで伸びていった。っていうか衝いた。


行き場をなくしたその太い棒は長桶先生により痛々しくも二股に別けられそれぞれ横に伸びるように命じられた。


その後間もなく明くんは転校しW高橋も再び相見えることはなかった。


明くん、俺は明くんのこと忘れないよ。

                                −ダメ人間日記