一好事家の覚書

本稿はしりとりに関する一考察である。もちろんこの国民的遊戯における読者の最大の関心事は「どうしたらしりとりに強くなれるのか」というこの一点にかかっている。そのため本稿はしりとりの学術的な考察であるのみならず、実戦的に役立つことを主眼として書かれている。故にこのようなタイトルとした。本稿が来る世のしりとり界にわずかでも寄与するところがあるならばこれに勝る僥倖はない。


まず率直に言って私はしりとりが得意である。それは只私が夜毎独りしりとりで遊ぶという風流を解する粋人であるという理由からばかりではない。一言で言えばそれは真剣さの故である。しりとりのプロか、少なくともしりとりのルールを知っている程の者でなければ真剣さの分、私には勝てまい。まあだからといって、しりとりの強さで人間の価値は決まらないと言う人もいるようだからあまりやっかまないで欲しい。


さてしりとりにおいてよく使われる作戦として『り責め』というのがある。りす→すり→理科→カリ→離散家族→栗→リンボーダンス→推理→理学療法士→尻→利己的遺伝子説→釣り→陸軍中野学校→瓜→量子統計力学隈取り→うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!ということになる。これを使ったことのない日本人はいまい。さらに中級者になれば『り返し』という作戦を使うようになる。『倫理』『料理』『利 』 『理 』 など。得意がって早めに出してはいけない。『り責め』でお互いが『りストック』を出し尽くしたと思われるころ、おもむろに切るべきカードである。ちなみに『り返し』カードは意外に少ないので普段からストックしておくべきである。私自身今挙げたものの他にいくつかストックがあるが教えない。だっていつあなた達と対戦することになるかわかったものではないではないか?!常に私は真剣である。


さてここで改めて『り責め』について考え直してみたい。これはあまりに一般的手法で誰もがこの戦法を優れたものとして疑いを持たないように見える。しかし私自身は幼いころより常々疑問に思ってきた。
『”り”で始まる言葉って多いと思うんだけど・・・。”る”の方が少ないと思うんだけど・・・。』
長年の疑問を解決すべく辞書を繰った。


・・・・・おお!圧倒的に”る”が少ないではないか!


しかし私はこれだけで『り責め』に対する『る責め』の優位を主張するほどあわてんぼうではない。これだけ『り責め』が一般的になっているのには理由があらねばならない。そう。『り責め』は”り”で始まる名詞が少ないから優秀なのではなく”り”で終わる言葉が多いからこそ成り立つ戦法である。(なるほど!って思うところ)


では逆に『る責め』は成り立たないのであろうか。残念ながら手元に逆引き辞典がないため”る”で終わる名詞の数は分からない。だれか持っていたら是非この論の完成のため協力を依頼したい。そして何故そんなマニアックなものを持っているのかも教えて欲しい。


試みに思いつくまま”る”で終わる名詞を挙げてみよう。


『春』『猿』『昼』『蛭』『遠流』『佝僂』『クロール』『スパイラル』『トータル』『バイリンガル』『オール』『パイナップル』『ビール』『ヒール』『低用量ピル』『アナル』等々。


やはり少なそうだが外来語が健闘しているようだ。『り責め』は上級者には通用しない。我々も日本人の端くれであるならば日本人として恥ずかしくないシリトリストたりたいものだがそのためにはやはり『る責め』マスターが必須であろう。しかし上級シリトリスト(=真の日本人)たるために外来語マスターがキーワードになるとはなんたるアイロニーか。